同じ蔵が醸す「辛口」と「甘口」の純米酒
2024年12月に「伝統的酒造り」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されたという嬉しいニュースが飛び込んできました。これを機により多くの方に日本酒に興味を持っていただき、日本酒に触れる機会がさらに増えていけば、嬉しい限りです。
さて、皆さまが日本酒を選ぶ際のポイントは何でしょうか。市販されている代表的な醸造酒の味わいの主体は、ビールが「発泡性と苦味」、ワインが「酸味と渋味」、それに対して日本酒は「甘味と旨味」だと言われています。従って、日本酒の味わいを表現する上で、「辛口」や「甘口」は避けて通れないと言えるでしょう。皆さまが酒販店や飲食店で日本酒を選ぶとき、銘柄や生産地、そして「辛口」「甘口」も大きなポイントになってくるのではないでしょうか。
日本酒の「辛口」「甘口」とは

では日本酒の「辛口」「甘口」はどのように決まるのでしょう。
日本酒の甘辛の基準は、糖分と酸の量によって決まります。糖分の量は、一般的に日本酒の比重を表す「日本酒度」で判断されます。日本酒に含まれるエキス分が多いほど比重が大きくなり、日本酒度はマイナスの値を示します。エキス分のほとんどを糖分が占めているため、比重が小さく日本酒度が+(プラス)になるほど辛口、比重が大きく日本酒度が−(マイナス)になるほど甘口とされます。
また、酸味を感じさせる有機酸の量を表す酸度も、甘辛や濃淡に影響し、酸度が高いと辛く濃く、低いと甘く淡く感じます。
ちなみに現在の純米酒の日本酒度の全国平均は+2.8、酸度の全国平均は1.46です(令和7年2月国税庁発表の令和5年度の「全国市販酒類調査の結果について」より)。
時代や地域によっても変わる「辛口」「甘口」
この甘辛ですが、全国の日本酒の平均的な甘辛が、時代とともに変化していくことも大きな特徴です。例えば、江戸時代の終わり頃から明治時代にかけては濃醇大辛口が一般的でした。大正の終わり頃から昭和の初め頃までは濃醇大甘口に、戦時下には濃醇辛口に、そして戦後は淡麗甘口に……と、変わってきました。日本酒の甘辛はまさに"時代を映す鏡"と言えるのかもしれません。

また、日本酒の甘辛には地域ごとに異なる食文化が大きく影響しており、九州北部と瀬戸内海沿岸地方は「甘口」傾向、甲信越および北陸地方は「辛口」の傾向があります。
つまり、何をもって甘辛と感じるかの基準は人それぞれ。日本酒度などの数値はあくまで一つの目安として考えていただければと思います。
そこで今回の頒布会は「辛口」と「甘口」をテーマとし、この頒布会のためだけに特別に仕込んだ各蔵の個性や地域性が光る純米酒をご用意いたします。「辛口」と「甘口」を意識して飲み比べていただき、日本酒の面白さや懐の深さを感じてください。各藏、さまざまな辛口・甘口の表現があり、いずれも暑い季節に嬉しい美味しさです。香味を大切にした瓶貯蔵でお届け。夏の味覚と合わせて楽しいそれぞれの味わいを、飲み比べてお楽しみください。そして日々の日本酒選びの一助となれば幸いです。
「酒の栞」
お酒と一緒に、蔵元にまつわる物語を記した「酒の栞」をお届けします。この頒布会でしか楽しめない各蔵元の個性あふれるお酒を楽しみながら、「どんなところで、どんな人たちが、どうやって」そのお酒を生み出したのかと思いを巡らせて、お楽しみください。