お酒の歳時記
2004. 11
 ◆今月の肴◆ 晩熟の〈ひやおろし〉に合う料理
枯れ葉が舞う晩秋のこの季節、
刻々と熟成の度合いを深めた〈ひやおろし〉は
円熟の極みを迎えます。
その濃厚でまろやかな旨みと、
しっとり落ち着いた風情に合う料理をご紹介。

シーズンも終盤を迎えつつある〈ひやおろし〉
今しか味わえない晩熟の味わい、
なくなる前に、急ぎ酒屋さんに走りましょう。
(取材協力/岡永倶楽部)
山の芋のフライ▼
イノシシ肉のニンニク味噌漬け▼
 ●山の芋のフライ
     
VS. やさしく柔らか「千代寿 純米吟醸ひやおろし」
鮭ハラスの鮭漬け焼き
【参考小売価格(税込)】
1.8L・2,940円
720ml・1,575円
 今のうちに根菜系を食べておくと冬場に風邪を引かない、と言われておりますが、それはさておき芋の美味しい季節です。というわけで、芋を使った料理をご紹介。山芋ではなく丹波産「山の芋」という芋のフライです。

 サトイモを彷彿させるねばり気のあるモチモチ感と、ジャガイモのホックリ感が融合した食感ですが、しかし泥臭さはなく、きめ細やかで上品。じんわり広がる深く淡い甘味が魅力の芋です。これをザク切りにして素揚げし、塩胡椒をまぶしたシンプルな料理。スダチを搾っていただきます。

 合わせたお酒は「千代寿 純米吟醸ひやおろし」。山形の酒米《出羽燦々》を用い、山形KA酵母、新進気鋭の山形杜氏が醸した山形づくしの一本です。「やさしい味ですし、晩熟のお酒の甘みが芋の甘みを強調してくれると思いますよ。また、酸が油を切ってくれるいい相性です」。

 おすすめ通り、やわらかくきれいでふくらみのある上品なお酒です。《杜氏の蔵隠し》と似た麗しい含み香も健在ですが、しかしはるかに穏やか。奥ゆかしい友人と語り合っている気分というのか、上質な掌編小説を読んだあとのじんわり染みいる感動というのか、ほっとする味わい。

 やわらかなお酒ですが、結構しっかりしている酸が、油をすっきり切ってくれるので、揚げ物にも合います。さらに、このお酒を一口飲んでからいただくと、繊細な食材の香りや味がより立体的に浮かび上がってくるからすごい。スダチの香りはより清々しく、芋の甘みはより甘やかに、とろみ感も倍増。

 野菜の繊細な味をシンプルに楽しみたいとき、千代寿のこの一本、おすすめです。

 ●イノシシのニンニク味噌漬け焼き
     
VS. 熟成の旨みをたっぷり楽しめる「旭日 特別純米ひやおろし」
鮭ハラスの鮭漬け焼き
【参考小売価格(税込)】
720ml・1,418円
 晩秋になって口にしたくなるものといえば、ジビエ。野生動物の濃厚でワイルドな肉を味わえるのは、寒い季節ならではのお楽しみです。というわけでイノシシにご登場いただきました。

 八角茴香といっしょに煮込んだイノシシ肉を、丸ごとゴロリとニンニク入りの味噌に漬け込むこと約1週間。これをスライスしてそのままいただきます。ニンニクのコクと八角茴香の香り、味噌の塩味の効いた旨みも濃厚で、熟成の進んだお酒とのいい相性ではないかと期待も膨らむお味です。

 さて、おすすめいただいたお酒は、『旭日 特別純米ひやおろし』。熟成した香りが甘やかに美しく、潜んでいる旨みの濃厚なお酒です。ぬる燗にしてもいけそうな。

「非常にいい熟成をしています。チョコレートやカカオのような甘やかな熟成の香りが感じられるのですが、これは晩熟タイプのお酒に見られる香りで、今、この香りのものに出会えたら幸せですよ。あとお酒に苦みがあるのですが、これが味噌のコクや肉の脂の甘みとメリハリがついて面白いと思います」とは店長談。

 そのいい具合に熟成したお酒の香りと、イノシシ肉の八角の香りとが素敵にマッチ。単体で飲むとしっとりと落ち着いた風情のお酒は、食と合わせると、潜んでいた旨みが前面に出てきてぐっとボリューム・アップ、グラマラスな姿をあらわにします。一方で、味噌のしみこんだイノシシ肉の塩味を抑えて旨みをさらに豊満に。

 晩秋の今だからこそ楽しめる、ボリューム感たっぷりの旨みの競演と言えましょう。

 
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