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| ◆『月の桂』立ち読み1◆ 小津安二郎監督作品《小早川家の秋》 |
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| 現在の増田徳兵衞商店 |
この映画(※編注 小津安二郎監督作品《小早川家の秋》)のシナリオは、主人公の性格のイメージづくりができたときから、一気に書きあげられた、と前に述べた。それは昭和二十九年、里見惇、野田高梧、小津安二郎の三人が伊勢・志摩・大阪・京都と五泊六日の旅をしたとき、里見氏の知り合いで、案内役を買った十二代増田徳兵衞(本名・信一)氏の、大店の旦那らしく、物知りで、しかもどこか飄々としたイメージがヒントになったのである。
ストーリーはもちろんフィクションだが、随所に十二代目の面影が滲んでいる。宝塚映画撮影所にセットをつくり、本物ごのみで凝り性の小津は、増田家からそっくり小道具を運んだというが、撮影スナップのなかに、小林桂樹扮する十三代目徳兵衞氏が《月の桂》の紺前掛けをして、演技指導をする小津監督とならんで写っていたりするのは、ほほえましい。
ということは、増田徳兵衞商店のありようをそっくりモデルにしたといっていいのではないだろうか。さらに、映画のなかで企業合併問題が起こっている相手先の大手蔵元が《桂正宗》という名前であることも、小津監督のうがった洒落であろう。
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